リアンの考察部屋

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なぜ千棘が選ばれた?ニセコイの結末について徹底考察!!!

さてさて、心機一転新たに書いていこうと思うのですが、その1発目がこのネタ、ニセコイの結末に関してです!!

この作品、私が中高生の頃にハマりまして、そのまま全巻順に買い揃えた私史上初のラブコメでございます。さてさて、この度このニセコイ、文庫版が発売されました!!!と言っても投稿時点で既に6巻までは少なくとも出てるかなー、って感じなのですが。懐かしくなり文庫版も買い揃えちゃおうなんて考えている今日この頃ですが、同時に思い出すこともございます。

それは、最終的に千棘と小咲、どちらとくっついたか、その結論に関して大論争を呼んだことです。

まあ私本人は千棘派でも小咲派でもなく、誠士郎ちゃん派でしたのでこの結末については特に思うことはございませんが、フラれた側の小咲派の人たちが私の周囲をはじめ、大騒ぎしていたのは記憶に新しいです。むしろこの結末故にファンが叩いてる場面も見

かけました。

さて、このニセコイが連載終了してはや数年、実際のところ大騒ぎするほど結末に無理があったのでしょうか?今回は作中の描写などからその点について考察していきたいと思います!

 

 

 

0.ニセコイとは?

 ニセコイとは2010年代のジャンプを代表するラブコメ漫画作品と言えるでしょう。主人公でヤクザの息子の一条楽とギャングの娘の桐崎千棘はお互いの家による大きな抗争を防ぐために偽物の恋人関係を築くことになります。更にはクラスメイトの小野寺小咲や新たに楽の許嫁として加わる橘万里花など様々なヒロイン達との恋愛模様が描かれていきます。

 物語のもう1つの大きな要素として「約束の女の子」が挙げられます。これは楽が幼いところとある場所である女の子と将来また再会したら結婚しようという約束をした、というものです。そしてその約束の証として楽は錠のついたペンダントを、女の子はその錠を開けられるカギを持っていよう、という約束です。そしてこのペンダントとカギが物語の中心ともなっていきます。

 結論から申しますと、その約束の女の子とはクラスメイトの小咲ちゃんでした。ですが楽はその小咲ちゃんではなく千棘を選ぶという選択をします。そしてその選択に対して小咲ちゃんが読者からの人気を集めていた分反発も大きかったというのが当時の状況です。まあ他にも色々な事情はありますが。

 

1.物語の特性

 ではここまでは大枠の物語の話。次は物語の構造を通して物語の特性を明らかにしていきましょう。

 

a)設定

 このニセコイという作品、設定はかなりぶっ飛んでいることも多々あるでしょう。それはやはり他のラブコメ作品と比較して「コメディ」の要素が強いことも影響しているでしょう。それは特に千棘の実家のギャング組織、ビーハイブの発明品の回などを見ていただければ顕著です。

 それ以外の面でもこの作品の根底となる楽と千棘のニセコイ関係が構築されるまでのスピード感などを見ても設定自体はかなり飛んでいる、言い換えると特殊なものであると言えるでしょう。

 

b)恋愛観

 対して、この作品における恋愛観はかなり現実志向であると言えます。それは特にコミックス最終巻の巻末のおまけを見てもらえれば分かります。ラブコメのヒロインはやはり告白の成否のシーンが一番のクライマックスとなっていきます。特に負けヒロインはいわば振られたシーンが一番輝くと言えるでしょう。言い換えると、その後を描く必要はありません。つまり大概のラブコメにおいて主人公に振られたヒロインがどうなるかというのは分かりません。もしかしたら主人公の事を想って生涯独身を貫くかも知れませんが、それは読者には知り得ないこと、となっていきます。

 一方、ニセコイでは先にも述べたとおり、最終25巻の巻末において後日譚を書いています。それは正確には新しく楽達の高校に入ってくるどことなく小咲に似た「咲」が名前に入った女の子と金髪のどことなく楽に似た「一条」を名乗る男の子が出会うというものです。更に最近出た文庫版でもアレカラと称して原作最終話からそのおまけの時点に至るまでの間の出来事をおまけとして載せています。これらの内容から総合すると、選ばれなかった小咲ちゃんはきちんとその後もう一度素敵な恋を見つけて結婚し、娘を設けていることが分かります。

 現実における恋愛でもそうでしょう。誰かクラス内にモテる人がいたとして、その人に振られた人がみんなその人のことを想いながら残りの生涯を過ごすわけではありません。むしろその後の新たな出会いによってまた別の幸せを築く人の方が多いでしょう。ラブコメではあまり描かれないこの後の話をきちんとニセコイではおまけという形で拾っているのです。

 また、現実の恋愛でもよくあることとして単純接触効果についてもこの後には取り上げていきましょう。

 

c)ひずみ

 さて、このようにニセコイは設定はところどころ特殊なものでありつつも作中の恋愛観はかなり現実に沿ったものとなっています。しかしその差によって物語の中にひずみが生じてくることも事実でしょう。

 そしてこのひずみは終盤にかけて大きくなっていきます。その原因は「約束」です。この幼い頃の約束の真実を追う中で徐々に作品の雰囲気がファンタジーに寄っていきます。それ自体は悪いことではありませんが、そこに対して現実寄りの恋愛観が置いて行かれる、言い換えると設定や世界観と恋愛観の溝が大きくなっていくという現象が発生しているのです。

そしてその最大限となったひずみが地震のように炸裂したのが楽が小咲を振るシーンとなっていくのです。結果、特に小咲が好きなファンからの反発の発生や「千棘とは小咲と比べて積み重ねがない」という意見にも繋がっていくのでしょう。

 

さて、次の項目では先ほどとりあげた「千棘との積み重ねがない」という意見に関してそれが本当なのか、検証していきましょう。

 

2.目に見えない千棘の選ばれた理由

a)千棘とは積み重ねがない?

 さて、よくニセコイに関して連載終了後に言われることとして、「千棘とは積み重ねがないにもかかわらず作者の一存で選ばれた」という意見です。物語の表面上を追っていくと確かにそう見えてしまうのも仕方ないのかも知れませんが、それが事実かと問われればNoと言わざるを得ないでしょう。

 

b)単純接触効果

 ではなぜNoと言わざるを得ないのか。それは楽と千棘の間では強力な「単純接触効果」が発生していると言えるからです。そもそも単純接触効果とは、同じ物に何度も触れることによって人でもものでもそれに対する警戒感が薄れ、親しみを感じるようになるというもので、現実の恋愛でも用いられる心理効果の1つです。

 確かに、物語上小咲がピックアップされる回は多く、それによって多くの読者の心を掴んでいたのは事実。ですが、その小咲よりも遙かに長い時間楽と共に過ごしてきたのは千棘です。

 具体的に説明していきましょう。漫画のエピソードとなる、ということはある意味本人達にとって特別なイベントであったということです。しかし、恋愛の関係性が進むのは必ずしもそういった特別な場面だけとは限りません。むしろ何でもない時期の方が重要だったりします。実際、周りの方を見回したとき、こういう方はいませんか?「地元に仲のいい女の子がいて、帰省のたびに一緒に遊んだりしてたけど、彼女は今身近にいる女の子」という人です。私の周りにはむしろ地元に彼女がいるのに毎日部活で会ってた後輩に惹かれてしまった、なんて人も知っています。

 このような事態を引き起こすのが「単純接触効果」なのです。さて、ニセコイの場合に戻ります。ニセコイの場合、そもそも、千棘はこの作品のメインヒロインです。そのため、小咲に負けず劣らずメインとなるイベントが発生しています。そして更に、何度も言及しているこの作品の根本、ニセコイ関係が彼女を後押ししているのです。

 それはどういうことか?皆さんもよくご存じの通り、楽と千棘はお互いの実家の全面戦争を防ぐため恋人のふりをしています。そしてそれは家だろうと学校だろうと関係ありません。そのため、2人は何か事情がない限り登下校の時間を共にしています。更には、関係に疑念を抱かせないため、定期的にデートをしています。そしてこれらの関係を維持するためには綿密な打ち合わせもあることでしょう。実際、2人きりで相談をしている場面が何度もあります。

 さて、これらに関係する話が取り上げられることもありますが、それが常ではありません。もし、登下校やデートの話を全部取り上げたら恐らく漫画の半分は登下校とデートの話になることでしょう。そういう訳にはいきませんので、漫画としてはこういった何事も起きなかった2人にとって日常となっていることに関しては漫画のエピソードにはなりません。つまり、読者には見えない、だけど少し深く考えると想像できるような2人きりの場面が楽と千棘にはかなり存在している、ということになります。

 このような漫画には描かれていない場面における単純接触効果が読者の想定よりも急激な楽と千棘の進展に至る要因だったのではないでしょうか?

 

c)序盤から描かれる態度

 そして一見見えにくい、というより忘れてしまいがちなのが楽は序盤の頃から言うほど小咲一択ではない、ということです。

 序盤の楽はよく小咲のことが好きだと集に対しては発言しており、その想いは我々読者の知るところでもあります。しかし、その本人の発言にしては序盤から千棘に惹かれているのではないか、無視できなくなっているのではないか、という描写も多々存在しています。

 例を挙げるならば3巻で描かれた林間学校。その最終日の夜に肝試し大会が開かれます。突発的なハプニングによって千棘は苦手な暗い場所に1人で明かりもなく放置されるという事態になってしまいました。対する楽はくじ引きで幸運にも小咲とのペアを引き当て、舞い上がっていました。もしやこの2人に進展が…?というところで千棘の状況を知らされました。そのとき、本来なら先生や他の友人に協力を求めても言い場面出会ったにも関わらず、楽は脇目も振らず飛び出していきます。せっかく小咲とのペアを引き当てたにもかかわらず、です。その他、プールや1年のクリスマスなど、千棘に関することでは小咲に関する事以上に無茶をする場面が多く描かれています。

 もちろん、偽とはいえ恋人だから、というのもあるでしょうが、それだけでは説明がつかないほど楽は千棘のために身体を張っています。また、最初の特に仲の悪かった頃から楽は千棘の容姿に関しては褒めています。

 これらの情報を鑑みると、楽は自分で言ったり思ったりしているほど小咲一筋という訳ではなく、偽の恋人関係を通して割と早い段階から千棘にも惹かれていた、と言えるでしょう。

 

 ここまでをまとめていくと、現実でも起こりうる単純接触効果を通して楽はエピソードとしては見えない場所で千棘に惹かれていっていた、と考えることが出来ます。また、楽自身気付いていないうちにかなり早い段階から千棘に対しては強い想いを持っていたことも実際の序盤の描写から考察することが可能です。

 

3.なぜ「約束」は果たされなかった?

 それでも納得いかないのは小咲派のみなさまでしょう。「それでもずっと最初からお互いの事が好きだったのに。」「2人は約束をした仲だったのに」そう思われる方も多いことでしょう。ではなぜこの結末となったのか、それを小咲の視点から観ていきましょう。

 

a)なぜお互いを好きになった?

 さて、よく皆さんもご存じの通り、楽と小咲の2人は序盤から両片思いの関係として描かれていました。ではなぜ2人はお互いの事を好きだと感じるようになったのでしょうか?「約束の子」だから?いいえ、違います。ただお互いの人柄に惹かれたからです。

 これが何を示すのか?それは「2人は約束の子のことは幼い頃の思い出として大切にしているだけでその約束の子と今も付き合いたいと思っているわけではない」ということです。確かに、2人の発言として約束の子がお互いだったら良いな、というものはありますが、実際、2人は10年前に出会っていたことは早い段階で知っていても、物語最終盤までお互いが約束の子だったことは知らず、中学の頃からの知り合いとして恋に落ちています。

 逆にこれは実際の関係性はともかく、2人が恋に落ちたきっかけは現実でもよくあるもので、言い換えると何らかのきっかけで簡単にその両片思いの関係は破綻し得た、ということです。そしてそのきっかけとなってしまったのが集英組とビーハイブの抗争の激化とそれに伴う偽の恋人関係の締結だったわけです。

 

b)やはり大事な作品の恋愛観

 もう1つ、大きく重要になってくるのがやはり作品における恋愛観です。先にも述べた通り、ニセコイの恋愛観はかなり現実志向です。つまり、この現実志向の恋愛観が小咲の失恋にも大きく関わってきてしまったと言えます。

 例えば、先にも挙げた、本来の関係性によって見えにくくなった本来のよくある恋に落ちるきっかけです。よくある、というのは言い換えると何かちょっとしたきっかけで崩れてしまうような実は不安定な状況ということで、その状況が実際に千棘の登場で崩れた、と言えるでしょう。また、皆さん自身よく思い出してみてください。幼稚園のとき、自分にせよ友達にせよ、誰かと結婚する、と約束していたことがあるでしょう。そして今あなたやその友人の隣にはその約束の人はまだいるでしょうか?いる人もいらっしゃるでしょうが、そう多くはないでしょう。実際、体感のことではありますが、中々そんな人に会うことはありませんよね。

 このような恋愛観が作品の中に存在することで結果的に恋愛の進展に関しては物語的お約束は働きにくかったと言えます。

 もちろん、物語を進める上でのどうしても避けられないご都合主義的としてのお約束はニセコイにおいても野球ボールなど様々ありますが、そちらはギャグとして昇華されることも多く、恋愛の発展には繋がっていません。そしてそのようなお約束展開は千棘と小咲の両方に発生していました。

 つまり結局のところ、恋愛が進展していくにあたってニセコイにおいては現実的な恋愛の進み方が優先され、よくあるお約束はギャグに流れるなど恋愛の結末には大きく影響していないと思われる、ということです。

 

c)小咲は優しいけれど…

 そして最後に問題となってくるのは小咲の性格的な問題です。これは小咲が優しいのがある意味問題でした。

 小咲が優しいのはこれまでにもずっと言われてきており、それは楽を始めとする多くのキャラ達の口から言及されてきていました。ですが、むしろこの優しさが彼女にとっては仇となったとも言えるでしょう。

 小咲の優しさは言及だけでなく様々なシーンで発揮されています。しかしその優しさは時として恋愛の進行の邪魔となります。実際、様々な大きなイベントにおいて何かハプニングが発生したとき、楽が自分をほったらかしにして解決に向かってしまったとしてもそれに対して文句を言うことは一度もありませんでした。言い換えると、もしそこで引き留めるなどの行動が発生していた場合、恋愛の進行度は間違いなく実際の物語よりも大きく進んでいたことでしょう。

 また、優しいが故に楽も気を遣うという場面もありました。優しいが故にそれが本心であるかどうかにかかわらず何かムリをしているのではと心配を生み、どこか楽にもそれに合わせた仮面が外せなくなっていたように思えます。その点、千棘は良くも悪くも素直で、大概の場面で嫌なことは嫌と、嬉しいことは嬉しいときちんと言葉でも行動でも伝える分、楽もより自然体であり、それ故により関係は進みやすかったのではないかと思われます。

 小咲の優しさはそれこそが彼女の魅力であり、それを欠いたら小咲じゃないと思われる方もいるでしょう。しかし、恋愛における戦略上は彼女が優しいが故にお互いにあと一歩を踏み込めないでいる内に楽の気持ちはより自然体でいられる千棘に傾いていってしまったと言えるでしょう。

 

 まとめると、小咲自身は非常に魅力的な女の子であり、だからこそ楽は長いこと彼女を想い続けてきた事でしょう。ですが、お互いの好きになったきっかけそのものは特段珍しいものではなく、更新されうるものであったことや、物語の構造、そして小咲自身の性格が結果的に楽との縁を引き寄せるに至らなかった要因ではないかと思われます。

 

4.結論

 ニセコイという物語は設定のファンタジーさに対して恋愛は読者には見せない何事もない部分で進行していくという現実的なものであるが故にそのひずみが読者、特に小咲派の方の納得感の薄さに繋がってしまっているのでしょう。

 しかし、このように物語の要素1つ1つを現実世界の恋愛と照らし合わせてみると、以外と楽が千棘を選んだことに関して疑問符だらけ、ということはなくなってくるのではないでしょうか。

 小咲が一番アドバンテージを持った状態で物語をスタートしていながら、物語の性質や本人の性格的なものによってあと1歩踏み込めないでいる内に、偽物の恋人関係を通して物語のエピソードにもならないような日常の一コマにおける単純接触効果によって本人同士ですら気付かないうちに千棘との関係の方が進んでしまっていた、というのが本考察において結論づける、千棘が最終的にヒロインとして選ばれた要因です。

 また、この結末は既に中盤において示唆されていたとも言えるでしょう。それは楽が千棘の誕生日の直前に記憶喪失になるエピソードのことです。楽は記憶を取り戻す直前、千棘に「今約束の女の子が目の前に現れたらどうするか」と問われます。それに対して楽は「その子は初恋の人かも知れないが、今は千棘がいるのでどうにもしない」と返答しています。この場面においては千棘は実際はこの恋人関係は偽物であるため、楽の言うとおりにはならないと考えています。しかしそれは一方でもしこの関係や気持ちが本物になったときには約束の子ではなく千棘を選ぶ、ということの示唆でもあります。そして結果、物語を経て楽の千棘に対する気持ちは本物へと変わり、そして千棘を選ぶことにも繋がっていくのでしょう。

 余談ではありますが、物語の結末を否定するファンの意見の中でよく「千棘より○○の方が魅力的だろ」や「千棘の魅力が分からないんだけど」といったものを目にしますが、これは楽にとっては大きなお世話というものでしょう。結局のところその「魅力」というのは読者である我々から見て「魅力的」に見えるだけで、楽が誰を「魅力的」であると捉えるかは楽の勝手なのだから。

 近年、ガッシュやスケダンなど文庫版となった作品やその作者に新たな動きが見えるパターンが出てきています。それは作品の続編が作られたり、同じ作者の似た系統の新作が生まれたり、というものです。それを踏まえると今回、ニセコイの文庫版が全て出た暁には、すぐかどうかは分からないが、古味先生にも何か動きが見えるかも知れません。それがニセコイのメンバーの子ども世代を描くのか、それとも似たような王道ラブコメが生まれるのかは分かりませんが、今回ニセコイの結末に納得のいかなかったという人たちもそのまだ見ぬ新作で自らの望む結末が見られるよう祈りながらまた物語を振り返ってみるのもまた乙なものではないでしょうか。

 ここまでとりとめのない文章を読んで頂きありがとうございました!次にどんな作品を取り上げるかはまだ考え中ですが、次の更新もどうかお楽しみに!それではアリーヴェデルチ